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佐賀県唐津市のフリーペーパー「からっちゅ!」のブログ

地元の提灯制作技術を受け継いだ、唐津最年少の若手提灯職人

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皆さんこんにちは!からっちゅ!制作担当のハラです。

今回は、7月号の特集記事「伝統工芸を未来に繋ぐ」より

井本 翔さんをご紹介します!

 

地域には様々な業種の技術者が存在しますが、その中でも後継者が年々減少しているジャンルがあります。それが「伝統工芸品」です。この唐津でも例外ではなく、現在工芸人を扱う職人の高齢化も課題となっていると思います。

 

その中で私たちが今回着目したのは「提灯職人」。

実は唐津市木綿町で長らく提灯屋を営まれていた提灯職人さんが、ご高齢によりお店をたたまれることとなり、後継者問題が浮上していました。

そんな中、自分が継ぎたいと手を挙げたのが、新しい提灯職人の「井本さん」です。

彼がなぜ伝統工芸に興味を持つようになったのか、提灯の制作技術を受け継いだ理由とは・・。紙面では乗り切れなかった話も含めて、ご紹介していきたいと思います!

 

そもそも現代の「提灯事情」後継者不足とはー

「提灯」とは?

竹ひご等に和紙を張り付け、昔から照明器具の1つとして使われてきた伝統工芸品です。「提」とは”手に下げる”という意味で、「携帯することが出来る灯り」を意味します。現代でいうところの懐中電灯ですね。

昔は提灯の中にろうそくを入れて使われており、「月夜に提灯(明るい月夜には提灯は無用の産物となるという意味)」なんていうことわざがあるほど、日常的に使われていた道具でありました。

 

現在においても提灯は日常的には使用せずとも使います。例えば盆提灯、そして夜に開催される祭り、屋台、店頭の看板代わりの提灯など。私たちも日常的に見ることが多いと思います。

 

ではなぜ「後継者不足」という問題が起こるのか

それは、提灯の素材や作り方に変化が起こったからです。

昔はすべて手作業で、「竹ひご」を編んで「和紙」を張り付け、「絵付け」を行い作り上げていたのですが、現在では絵付けはプリンターに、和紙はビニール製に、竹ひごはプラスチック製に、そして注文はネットでワンクリック・・・と簡易的な提灯へと変化を遂げました。このため、昔ながらの「味のある手書きの提灯」よりも手軽な大量生産型の提灯の方が需要が増え、職人の後継者不足が問題となっているのです。唐津も例外ではなく、昔ながらの提灯屋は残り1~2件に。あとは県外の提灯屋かネットでの受注が主流となっているのです。

 

提灯制作技術を絶やしたくないー唐津最年少の手書き提灯職人へ

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元々、曾祖父が靴職人、祖父が靴職人兼唐津くんちの笛職人と、実家の家業が通じて「職人」だった井本さん。

そのうえ唐津くんちとも深い関わりがあり、祖父が唐津曳山囃子保存会発足メンバー兼初代会長で、叔父が現役で会長を務めながら笛づくりも継がれているという、職人技と唐津くんちが身近にあった幼少期を過ごされいます。

 

そういった環境だったからか自身も「ものづくり」が好きで、小さい頃は絵を、小学生の頃には彫刻が好きになり、立体作品にはまっていろんな作品を作っていったそうです。

そんな中転機となったのは「高校生の体育祭」。美術部門のリーダーとなり、巨大看板から小道具まで、全員を引っ張り制作。見事優勝を勝ち取りました。

その時に「何もない場所に立体的な作品を作り出す、という点では絵も立体作品も変わらない」と、絵で立体的な表現をすることが好きになり、学校卒業後は会社員となるもすぐに退職し、手書きの看板広告店を開業されたのです。

 

その後、井本さんの得意な力強いイラストはすぐに注目を集め、看板から高校の体育祭用法被、さらには建物や船など様々な依頼をこなされる日々が続くのですが、そうした中でたまたま浮上したのが提灯職人の話です。

同じ木綿町の「内山洋傘店」内山さんが引退し後継者を探されている中、一旦は叔父への打診で話が来たものの、多忙な日々を送る叔父はやむなくお断りされたため、井本さんが受け継ぐ決心をし、手書き看板屋兼提灯屋として新しい道へ進まれたのでした。

 

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内山さんより認められた際に一緒に受け継がれた「提灯用の筆」。

その後、福岡の創業200年の老舗提灯屋にもとで絵付技術を修行されています。

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井本さんの絵。こういった曳山の絵の要望も多いそうです。

 

提灯制作技術ー手書きの絵付けとは

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提灯には描き方のコツが!間違えてしまうと間延びしたように見えてしまう!?

円形の提灯は、そのまま描くとバランスの悪い間延びした絵となってしまうそうです。

特に盆提灯などの家紋は円形が多く、バランスがとても重要視されています。

というのも 実は目の錯覚で、円形のものにそのまま字や絵を入れると、縦長の不格好なものに見えてしまう。提灯職人さんたちは、提灯の形に合わせて横長・縦長に調整しながら仕上げる必要があります。

 また、色の濃さも重要で、光を入れた時に文字や絵が透けないよう、実際に灯りを入れながら最低3回は重ね塗りされているそうです。

 

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左が内山さん作、右の2つが井本さん作の提灯。

元々習得に5年はかかると言われている技術ですが、看板業の経験もあって、ものの数か月で太鼓判を押されたそうです。

 

井本さんオリジナル「グラデーションの絵付け提灯」

「中に灯りを灯すならグラデーションは結構映えるんじゃ」と、グラデーションの絵付けにチャレンジされています。井本さんの直感は大成功で、とても幻想的な提灯が出来ました。

名前を入れて贈り物やお土産にも。と新しい提灯の形を目指されています。

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まずは外枠から。これがないと絵の具が流れてしまうそうです。

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絵の具を水で伸ばしながらグラデーションに。しかし外枠の絵の具が固まる前には描き上げないと失敗となるそうで、この1輪だけでもたったの数分で描き上げられました。

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葛飾北斎風な波の絵。波しぶきの勢いがすごく、勇ましくも綺麗な絵が提灯にマッチしています。

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灯りを灯したグラデ―ションの提灯。淡い色合いが映えてとても綺麗です。

 

今後は手書き提灯をもっと身近なものにしたい

「手作りの提灯を未来へ残していきたい」と語る井本さん。

大きすぎる盆提灯はアパートやマンション住まいの方には合わず、やむなく提灯を飾らなくなる方も少なくないとか。そういった方のために「小型の提灯」作りも行われています。日常に手書きの提灯が1つ入るだけでも伝統の継承に一歩進めるということですね。

こういった新しい考えやアイデアは、固定概念が薄い若手の職人さんだからこそ生まれるのではないかと思いました。

「職人の技術は人の手でしか生み出せない」当然のことですが、機械化・効率化が進む現代では忘れがちになっている常識ではないかと考えさせられます。

 

新しくギャラリー誕生

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屋根は瓦、内装は梁を交せた和風建築を意識しつつ、モダンな外装のデザイン。

井本さんらしいこだわりです。

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ギャラリーの中。内装もぜひ見ていただきたいです。

  

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井本翔さん(23)

ギャラリーのオープン後すぐに盆提灯の受注が入り、慌ただしく作業さながらも、笑顔で取材を受けていただきました。

地元の「なかじま建築」に協力を仰ぎ、工房兼ギャラリーを6月20にオープンされました。中には手書き提灯から看板、他ステッカーなどが展示されています。

提灯を受注したい、作品を見てみたいという方は、ぜひお問合せの上、足を運ばれてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

看板広告業・伝統工芸店「ことぶき」

代表:井本 翔さん

TEL:0955-53-8897 FAX:0955-53-8898

住所:佐賀県唐津市唐房6-4948-8

koto-paint.com