からっちゅ!Web版

佐賀県唐津市のフリーペーパー「からっちゅ!」のブログ

満潮の海で引き合う波戸の伝統行事「海中盆綱引き」

f:id:karacchu:20200811095017j:plain

 

前回、「波戸岬の甘辛くて柔らかーいサザエやイカと優しいお母さん達」で、波戸のお母さん達と海士さん、そして画期的な企画「サザエ小屋」の裏話を聞いた原。

 

サザエを焼いていたお母さん方が皆さん波戸地区の方だったので、このまま帰るのも味気ないなと、サザエ談義をしながら地元の方だからこそ知る波戸の伝統行事と、伝統のお菓子についてお尋ねしました。

 

 

 ▼前編の波戸地区のお母さん達と出会ったサザエ小屋。波戸の海士さん達が獲ってきた美味しい海の幸と、地域を支えるために頑張るお母さん達についてご紹介しています。

karacchu.hatenablog.com

 

 

f:id:karacchu:20200811100040j:plain

 

 

「そういえば、波戸といえば『海中本綱引き』が有名ですよね」。

お母さん方にこう切り出してみると「そうよ~。今年は中止になったばってんね」と皆さんお互いの顔を見合わせ、少し切なげに、でも笑いながら話してくださいました。

 

「みんなで『エイヤッサ―』って言って引くんやけどね。もう綱引いた後は、お父さんも兄さんも声がでらんと。翌日までしゃがれた声になるっちゃけん。」(訳:お父さんもお兄さんも声がでなくなるの。翌日までしゃがれた声になるんだから)

海の中で引き合うこの珍しい伝統行事は波戸地区にとって年に1度の一大行事で、参加する男性陣は、1年間この日のために貯めに貯めてきた気合いを全身で出し合うのだそうです。

 

と、ここで「海中盆綱引き」をご紹介します。

======================================

海中本綱引きとは

約400年前から波戸地区で受け継がれてきた伝統行事「海中盆綱引き」。

その名の通り盆に海の中で引き合う綱引き行事で、お盆の締めである「8月15日」に地域住民が波戸漁港へ集まり、「どんざ」と呼ばれる着物を身にまとい、直径45cm、長さ30mの巨大な大綱を海が満潮となった時に合わせて一斉に引き合います。

代々男性のみの参加が許された行事でしたが、近年は中学生以下の子どもたちが参加する「子ども綱」も行われるなど、伝統継承にも努めていらっしゃいます。

その起源とは

諸説ありますが、「豊臣秀吉による朝鮮・明の占拠を目標にした朝鮮出兵『文禄・慶長の役』」説が有力視されています。

実はここ唐津市の鎮西町名護屋には東は東北から西は九州南部に至るまで全国各地の武将が集まり、朝鮮攻略を目指しました。その数は10万人以上とも言われ、その中心に建てられた「肥前名護屋城」は、大阪城に匹敵するほどの大きさだったともいわれています。

かの有名な太閤秀吉公がこんなド田舎の果てのまちに来られるものですから、唐津は丁度秀吉公が通ってきたと思われる浜玉町から鎮西町までの間、秀吉公や朝鮮出兵に関連した伝統行事や郷土料理、逸話などが多数残されています。(名護屋城建設の前に視察に言った方の記録に「名護屋は人もそんなにいなさそうな結構なド田舎だった」なんて意味合いの文書が残っているそうで、確かに大阪からしたら相当な田舎に見える場所だったと思います。)

 

さて、話は戻りますが、この「海中盆綱引き」も例外ではなく、その起源は文禄・慶長の役の丁度真っ只中。将兵の労をねぎらい士気を高めるとともに、ご先祖様や戦没者の供養も兼ねて盆に行われたのが始まりではないかと言われています。故郷で盆供養が出来なかった人々の気持ちもねぎらわれたのかもしれません。

海中で行うに至った理由はいまだ不明ですが、漁業が盛んな町だったが故に豊漁の願いも込められていたのかもしれませんね。

現代の海中盆綱引き

「どんざ」と呼ばれる漁師たちが身にまとっていた着物を着て行われる行事でしたが、時代とともに着物を着ることもなくなり、全員手短につくろえた私服で行われるようになっていました。

しかし15年ほど前、地域の伝統行事としてPRするべく、地区でどんざをそろえ、全員どんざを身にまとい参加するようになりました。(子ども綱は私服です。)

現在では、紺色のどんざがさらに締まって、更に力強さを増した伝統行事となっています。

f:id:karacchu:20200811111527j:plain

大人綱。こちらは現在も男性が中心となっています。

足場の悪い海の中での大綱引き、写真だけでも皆さんの気合が伝わってきます。

f:id:karacchu:20200811111608j:plain

子ども綱。同じく海中で行われます。現在、町内外の子どもたちが参加しています。

======================================

「いやー、かっこよかとよ。」と、話を聞かせていただいたお母さん方も当日は大忙し。「海中盆綱引きが終わったら寄り合いがあるけん、女性陣はその準備でいそがしかと」男性陣の綱引きが終わるまでに、女性陣はお互い協力してたくさんのお料理を準備されるそうです。

 

そういえばこの辺りだと「いのち長だご」って郷土料理(お菓子)がありましたよね?そう尋ねると「昔はあれも作りよったよ。時間がかかるけん夜中3時から作らなきゃいかん。あれは大変かった」

 

かかる時間は10時間近く。以前別の方に尋ねたところ「難しすぎて一朝一夕では作れず、熟練の腕がないと厳しいからごめんけど教えられない」と断られたことがあります。

そんな波戸の郷土料理「いのち長だご」についても伺います。

と、まとめきれなかったので、次回へ続きます・・・

 

▼波戸地区の郷土料理「いのち長だご」。今から約400年前、朝鮮出兵時に集まった武将たちの影響を受けて作られた、栄養価の高い美味しい郷土のお菓子です。

 

 

karacchu.hatenablog.com

 

 

======================================

海中盆綱引き

日程:毎年8月15日

時間:満潮時に合わせて開催

場所:波戸漁港(佐賀県唐津市鎮西町波戸17-2)

おおよその開催時間や詳細について:

唐津市鎮西市民センター 産業・教育課 ☎0955-53-7155

 

 

 ※からっちゅ!2015年8月号掲載

f:id:karacchu:20200811114627j:plain