からっちゅ!Web版

佐賀県唐津市のフリーペーパー「からっちゅ!」のブログ

400年以上前、武将たちも食べた?だごとサツマイモのコラボ。波戸の伝統和菓子「いのち長だご」

f:id:karacchu:20200813110129j:plain

ブログを始めて早数か月。やっとこさブログというものに慣れてきたハラです。

前回、前々回にて「波戸岬サザエのつぼ焼き売店」のお母さん達に、サザエのつぼ焼き売店設立の理由や今日の状態、そして伝統行事「海中盆綱引き」の話を聞いてきたのですが、郷土の話を聞くことが出来るこんなチャンスは逃すまいと、更に波戸独特の郷土料理「いのち長だご」についても伺うことにしました。

 

当時まだ九州南部でしか作られていなかった「サツマイモ」が入った郷土料理。どうして「いのち長だご」という名前でサツマイモが入った料理が残っているのか、お母さん方の裏話を交えながらご紹介していきたいと思います。

 

 

▼前々回 波戸編第1弾「波戸岬の甘辛ーいサザエやイカと優しいお母さん達」

karacchu.hatenablog.com

 

▼前回 波戸編第2弾「満潮の海で引き合う波戸の伝統行事『海中盆綱引き』」

karacchu.hatenablog.com

 

 実は、私が最初に「いのち長だご」と初めて出会ったのは2016年の春。

桃山天下市の元館長 袈裟丸さんより「面白い郷土料理があるよ」と教えていただいたのがきっかけでした。失われつつあるこの郷土料理を少しでも多くの方に知ってもらうためにと自身で作って販売されており、「今日は店に出すと?」「取り置きしとって!」なんて声が絶えなかったといいます。(現在は販売されておりません。)

 

f:id:karacchu:20200813125856j:plain

当時販売されていた「いのち長だご」。きなこverとあんこverの2種類でした。

※現在は販売されていません。

 

まず、食べた感想はというと、

食感はもちっとした団子というより、だご汁などに入っている小麦粉を水で固めた「だご」をもう少し柔らかくした感じ。(うーん。九州以外の方には伝わりにくいかも(^^;))

結構独特な食感です。「もちッ+ちょっととろッ」っという感じでしょうか。

 

続いて味はというともう最高です!

生地がサツマイモベースなので、サツマイモがもつ天然の優しい甘さが引き立っており、その上からかけられたきな粉は小豆やきな粉の甘さとマッチして美味しい!

 

また、中に何かを入れてあるわけはないので、味は上に乗せられたもので決まります。

うーん。この食感と甘さなら、お汁粉の団子の代わりに入れてもとても美味しそう!

また、フォークでサクッと切れるほど柔らかいので、食べやすくて口当たりもよく、いくつでもパクパクいけちゃいます。

 

やはり、昔ながらのお菓子は、当時の物資や技術の都合が理由でしょうが、必要最低限の素材で作られていますのでとてもやさしい味になりますね。

動物性の素材が一切入っていないためか、口に残る甘さもないので、甘さが苦手な方やお子さんにもピッタリだと思います。

今の時代は、オーガニックやビーガンなど食へのこだわりが強くなっているように思えますので、巡り巡って今の時代にはぴったりの食べ物になっているのではないでしょうか?

 

いのち長だごってどうやって作られている?

f:id:karacchu:20200813130821p:plain

横から見た「いのち長だご」。生地が黄色く、横長に作られています。

こちらの写真にはきな粉も乗っていますが、当時はあんこを乗せるものが主流だったそうです。

「何か行事ごとがある時に食べられてたからね。集落全体の分作らなくちゃいけないから時間もかかるし、量も作るしで、早朝3時から集落の女性陣が集まってせっせと作りよったとよ。」とお母さん方。

私が以前取材した袈裟丸さんも量によっては10時間以上かかっていた、と言われていました。それほど時間もかける「いのち長だご」とはどんなものなのか・・・?

 

作り方----------------

(ざっくりとした工程のみご紹介します)

①小豆を焚いて、あんこを作っておく。

②サツマイモをきれいに蒸かす

③蒸かし終えたら、ほぐして滑らかな状態までこして整える

④小麦粉とサツマイモをきれいに混ぜ合わせる

※ここできちんと混ぜ合わせないとNG。この工程が大変だそうです。

⑤きれいに混ぜきったら、楕円型に形成。

(当時は20cm以上。数が多いためか、大きく作っていたそうです。)

⑥沸騰したお湯に形成した長だごを投入。火が通るまでゆでます。

⑦茹で上がったら、あんこを上につけて完成。

※上記パッケージには「米粉」の表示が。より食感が良いのかもしれません。

 -------------------

 

小麦粉+○○⇒ゆでる、という工程はだご汁などの「だご」と近い工程ですが、サツマイモが入ることで、食感をよくしているようです。

特に大変な工程は④で、蒸しあがった芋を次から次へと滑らかな状態までつぶしていく工程と小麦粉を均等に混ぜ合わせるのは骨の折れる作業だったそうです。確かに、繋ぎとなる小麦粉が多すぎるとゴネゴネした固いだごになりますし、少ないとゆでるときに崩れそうですね。しかし・・・さつまいも1本でも嫌気がさしそうなのに、これを何本もこなしていくと思えば、その苦労は伝わってきます。

悔しいことに調味料などを聞きそびれるという痛いことをやらかしてしまいましたが、恐らくだごに近いのであれば作れなくもないのかな?と思いますので、ちょっと挑戦してみたいと思います。皆さんも興味がありましたら、なんとか作ってみて下さい(笑)

 

「いのち長だご」の由来や歴史とは?

いのち長だごが誕生した時代はおおよそ400年前。波戸の海中盆綱引きと同様に、豊臣秀吉による「文禄・慶長の役」が関係していると思われます。

豊臣秀吉に続いて集められた武将は10万人以上といわれ、鎮西町の名護屋を中心に各所へ陣が作られました。ちなみに、波戸地区のそばに作られた陣は「薩摩藩」、鬼島津の異名で知られる「島津義弘」の陣跡が残っています。(国指定の特別史跡)

勢力をつけるためか、勝運を祈って食べられたのか、口答での伝承なために明確なことはわかりませんが、恐らくそういった理由にて当時としては高価な砂糖を使ったこの和菓子が誕生したのではないかと思われます。同様の理由でか、波戸以外の近隣地域にも近い和菓子が誕生しています。

 

しかし、他地域と違うところが1つ。サツマイモです。他の地域ではだごに小豆がかかったものが多い中、なぜ、波戸地区のだごにサツマイモが入っているのか。

理由はわかっておりませんが、このサツマイモが入ったお陰で「サツマイモ+砂糖+小豆」と味もよいがそれ以上に栄養価の高い食べ物へと変わっています。

恐らく当時にしてみれば、普段の食事の中でもこのだごは美味しいものであり、健康にもよい影響を与えたと思われますが、高価な食材を使っているためか、地域にとって特別な日でしか食べる機会がなかったといいます。それ故に「これを食べると丈夫になって長生きができる」、という意味を込めて「いのち長だご」という名称がつけられたのではないでしょうか?

 

ちなみにサツマイモについては本当にわかっていないんですが、個人的にはさつまいもが入った経緯が波戸区に陣を構えた「島津義弘」と薩摩藩に関係しているといいな、なんて思います。ただ・・サツマイモの伝来時期等を見るとやや違ってくるように思えるのでそこはロマンとして(^^;

 

※「文禄・慶長の役」とは、1592年より豊臣秀吉率いる日本軍が朝鮮半島国家に挑んだ戦役の総称。秀吉はたったの8か月で唐津市鎮西町名護屋に「名護屋城」という大阪城に匹敵するほどの城を築き、その周辺一帯には日本中の武将が陣を構えました。

各地の武将は秀吉に自軍の功績を伝えるべく奮闘したといわれ、一時は朝鮮半島の最果てまで進軍しましたが、その後秀吉が死去したため日本軍は撤退しています。

なお、その際に特に功績をあげた武将として先ほどから紹介している「島津義弘」の名があげられます。彼がなぜ「鬼」と称されたのか、どのような功績を残した武将だったのか。今年の9月18日~11月8日まで名護屋城博物館にて企画展が行われていますので、興味のある方はぜひご覧ください。

saga-museum.jp

 

f:id:karacchu:20200814214937p:plain

 だいぶ長くなってしまいましたが、現在、この郷土料理を作ることが出来る人は減少傾向にあります。理由としては食文化の変化が一番大きいと思います。この「いのち長だご」は作るのが大変なうえに、現代の寄り合い等ではこういった料理よりも刺身や総菜系統の食べ物、子どもが好きなお菓子等が主流となっているため、食べる人がだいぶ減っているのだそうです。

確かに・・・私もふつ餅、スナック菓子、鉢盛が並んでいたら、鉢盛が最初でふつ餅は最後のが選択肢になりそうです。

 

少し寂しい話になってしまいましたが、それでも美味しくて食べやすいこの料理。

時間はかかりそうですが、ちょっと自分なりに作ってみたいと思います。皆さんもぜひご自身なりの「いのち長だご」を挑戦してみてはいかがでしょうか。

 

 ※2016年4月号掲載

f:id:karacchu:20200815151812j:plain